産経抄

7月22日

 「東北(おくすけ)と関西(にしまえ)では、学生が自分の下駄(げた)ひとつ探すにも風儀が違っている。オクスケは黙って、じっと見て探している…ニシマエの特にせっかちな人と来ると、ろくに探しても見ないで『番頭はん、私の下駄が無くなった。どうしたんや』」。

 ▼井伏鱒二の小説『駅前旅館』の舞台は、戦後復興期の東京・上野界隈(かいわい)である。モデルとなった旅館には、100人以上の修学旅行の生徒が泊まっていた。番頭に直接取材しているだけあって、生徒や引率の先生の描写が細かい。