産経抄

8月16日

 終戦の日から数日して灯火管制が解かれ、夜の街は一斉に光を取り戻した。戦火におびえ疲れ切った国民にとっては、安息の訪れを約束する街明かりと映ったろう。皮肉なことに、人々は蝉しぐれや紅葉の季節を経て、敗戦の本当の厳しさを知ることになる。

 ▼神戸で終戦を迎えた西東三鬼は〈寒燈(かんとう)の一つ一つよ国敗れ〉と詠んだ。「寒燈」は寒々しい冬のともしびである。物資は行き渡らず、年を越せるかどうか不確かな中で空腹に身をよじる人も多かった。敗残のあわれを催した季節だろう。俳人の回想に「大層感傷的な燈火だった」とある。