産経抄

9月13日

 映画監督のスタンリー・キューブリックは、引きこもりに近い暮らしを送ったことで知られる。社交の場と距離を置いたその人に、ある時期から身に覚えのない苦情の手紙が届き始めた。「貸した金はどうした」「映画に出してくれる約束はどうなった」と。

 ▼調べてみると、キューブリックの名を臆面なくかたり続けた者がいる。悪事の主は、本人と似ても似つかぬ中年男だった(『詐欺と詐称の大百科』青土社)。巨匠の顔を大方の人が知らなかったために生まれた奇談だが、どんなフィクションも色あせそうな、赤の他人の化け放題である。