産経抄

9月18日

 《申告義務者(まうしいでをすべきひと)は、誠実(しやうぢき)に申告(まうしいで)を為(な)し、奮(ふるつ)てこの文明的国家事業(ひらけたくにのしごと)に協力(ちからをあは)せらるべし》。100年前の大正9(1920)年10月1日に実施された第1回国勢調査の調査票から引用した。ふりがなに注目していただきたい。難しい漢語をやまとことばに置き換え、誰でも理解できるよう工夫されている。世が世ならばお殿様だった柳澤保恵(やすとし)伯爵が発案した。統計学者としても知られる。

 ▼佐藤正弘さんの『国勢調査 日本社会の百年』によると、当時の行政は戸籍制度で事足りており、政府の高官は新たな人口調査の必要性を感じていなかった。国勢調査は経済を含めた国情を明らかにするものであり、文明国の証しでもある。統計学者たちの必死の説得が功を奏して、ようやく実現した。国勢調査と名付けたのも彼らである。