産経抄

9月27日

 「とても」という言葉は本来、「とても見過ごせない」などと否定を強めるものとして使われてきた。それが「すごく」の意味で使われるようになったのは、ここ100年のことだという。芥川龍之介が、大正12(1923)年ごろの随筆に書き留めている。

 ▼「とても安い」の言い回しが〈東京の言葉になり出したのは数年以前のことである〉と。民俗学者の柳田国男が「とても寒い」との用法を知ったのは明治34(1901)年で、「飛び上がるほど驚いた」らしい。新たな意味の「とても」が市民権を得るのに、約20年を要したことになる。