産経抄

10月2日

 「出汁(だし)が煮え立った鍋の中へ、梅安は手づかみで大根を入れ、浅蜊(あさり)を入れた…煮えるそばから…出汁と共にふうふういいながら食べるのである」(『梅安最合傘』)。

 ▼池波正太郎ファンにとってはたまらない、食の名シーンの一つである。池波さん自身、魚介や野菜などを小さな土鍋で煮ながら食べる「小鍋だて」が大好物だった。小学生のころ、浅草の大衆食堂でおぼえた。読者の食欲を刺激する見事な描写も、さもありなんである。