産経抄

10月15日

 一冊の歌集が異例のロングセラーを続けている。平成29年12月に角川書店から刊行された『滑走路』はすでに3万部を超え、9月には文庫にもなった。

 ▼作者の萩原慎一郎さんは、中学、高校でいじめを経験して、精神の不調に苦しみながら大学を卒業した。アルバイトや契約社員として働きながら、作歌を続けてきた。ところが初めての歌集が世に出るのを見届けることなく、32歳で自ら命を絶つ。と書くと、いかにも社会を恨み、自らを憐(あわ)れむ作品が並んでいると思われがちだ。ひとたびページをめくって295首の作品をたどれば、見事に裏切られる。