産経抄

11月25日

 作家の出久根達郎さんは50年前、東京・下町の古書店の店員をしていた。11月25日の昼頃、古書市場に出かけている主人から、電話で指示を受けた。「三島由紀夫の著書をまとめておけ」。三島の自決で世の中が騒然としていることを出久根さんは知らない。

 ▼書棚の一部に三島の作品を集めていると、飛ぶように売れていく。客の多くは、三島どころか文学とおよそ縁のなさそうな中年の主婦である。帰ってきた主人は渋い顔をした。まとめておけ、というのは、値上がりを見込んで隠しておけ、という意味だったのだ(『作家の値段』)。