産経抄

3月11日

 作家の故吉村昭さんに『梅の蕾(つぼみ)』という短編小説がある。岩手県の三陸海岸にある田野畑村に赴任した医師と夫人、そして夫婦を無医村に呼んだ村長の物語である。村人たちと山野を歩くのを好んだ夫人は、45歳の若さで亡くなる。

 ▼東京近郊で営まれた葬儀には、約200人の村人がバスに分乗して駆け付けた。村長が弔辞で、夫人が植えた梅の蕾がふくらみ始めていることを言おうとした時、すすり泣きの声が聞こえて、「梅の蕾」のところで絶句する。このシーンは実話だという。