産経抄

4月4日

 明治期の文学作品に触れて驚くのは、日本語の旺盛な食欲である。例えば尾崎紅葉の『金色夜叉』は、作家が海外の文明から何を吸収したかが分かる。第1章のせりふから。「まあ、あの指環(ゆびわ)は! ちょいと、金剛石(ダイヤモンド)?」。

 ▼横文字に加え、感嘆符と疑問符が仲良く収まっている。作家の記号偏愛は続く。「しめたぞ! しめたぞ!! ありがたい!!!」(第6章)。話し手の感情を補い、語勢の緩急を操り、便利な道具だろう。わが国は維新後のわずかな期間で横文字文化を受け入れ、食あたりを起こしてもいない。