正論

日米台、海峡危機に万全の備えを 拓殖大学学事顧問・渡辺利夫

 中国による台湾併合への意欲が急速に露(あら)わになりつつある。今年1月2日、「台湾同胞に告ぐる書」発表40周年記念大会において習近平総書記は、「一つの中国」原則を堅持し、「武力の使用を放棄することを約束せず、あらゆる必要な措置を取る選択肢を保有する」と明言した。加えて「九二共識」(1992年コンセンサス)に立脚し「一国二制度」をもって中台統一を図る、という方針を改めて提起した。3月の全国人民代表大会での李克強首相の政府活動報告も同趣旨を繰り返した。

 ≪中台関係を縛る「幻の合意」≫

 九二共識とは、中台の民間窓口機関による合意であり、双方が「一つの中国」(一個中国)の原則を守るものの台湾側はその解釈は双方異なる(各自表述)とし、中国側は文字通りの一個中国を堅持するというものであった、といわれる。合意文書は存在しない。当時の総統李登輝氏も台湾側窓口の代表辜振甫氏も共識の存在それ自体を認めていない。「幻の合意」なのだが、中国はこれを中台関係を律する政治的原則だとして譲ることがない。蔡英文総統が習演説と李報告について、それぞれ即日、一国二制度に「台湾の絶対的多数の民意が断固として反対しており、台湾がこれを受け入れることは絶対にない」と反論した。