正論

衝撃力を持った「令和」の意義 文芸批評家・新保祐司

文芸批評家、新保祐司氏
文芸批評家、新保祐司氏

 令和の御代になって、2カ月がたった。過去の元号が、中国の古典(漢籍)を元にしていたのに対して、今回初めて日本の古典(国書)から採られた。この画期的な変更については既に多くのことが語られているが、これは画期的という言葉では収まらない精神史的な意義を持っている。日本の文化と日本人の精神に、敢(あ)えて言えば衝撃力を持ったものであり、その影響は徐々に広く深く及んでいくように予感される。

 ≪国家的な気概を示した

 先(ま)ずはよく言われることだが、新元号が日本の古典から採られたことは、日本が一国一文明である日本文明を保持する国家的気概を示したということだ。それは、伝統に泥(なず)む保守ではなく、正統に基づく保守が根本であるということに覚醒したことに他ならない。これまでの伝統に従えば、中国の古典から採ることになったかもしれない。しかし、今日の世界の情勢のただ中で、日本の古典から採ることは、日本文明の正統に根差すことなのである。『神皇正統記』で北畠親房が、何故(なぜ)正統という言葉を使ったかに思いを致すべきである。また、西郷隆盛という日本の最大の正統的人物が、明治維新という時代の危機においては、最大の伝統破壊者であったことも考え合わせてもよい。伝統と正統は違うのである。