正論

21世紀の「闘技場」生き抜くには 同志社大学教授・村田晃嗣

文部科学省
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 「国際社会はとどのつまり、個人、集団、地域、国家、超国家組織がそれぞれにアイデンティティを模索する闘技場(アリーナ)」と1980(昭和55)年に出版された『アイデンティティの国際政治学』(東京大学出版会)の中で故馬場伸也氏(津田塾大学教授=当時)は喝破していた。移民問題などはその好例であろう。そこで今日の内外情勢から3つの事例を取り上げ、アイデンティティーという観点から再考してみよう。

 ≪日韓関係が抱える難問≫

 第一は、日韓関係である。この数カ月間、両国関係は悪化の一途をたどってきた。韓国は国際的約束を守らないと日本は批判し、日本は傲慢で歴史を反省していないと韓国は非難する。三権分立を盾にいわゆる徴用工問題を悪化させた文在寅政権の対応は行政府(三権の一つ)として無責任だし、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄に至っては、北東アジアの安全保障環境に対する自傷行為である。よりマクロにいうと、韓国は日本や米国とともに海洋国家としての歩みを続けるのかそれとも、中国やロシアにくみして大陸国家として進み出すのかが問われている。これは地政学的選択であると同時にアイデンティティーの問題でもある。