正論

台湾総統選に映し出された真実 拓殖大学学事顧問・渡辺利夫

台北郊外の新北市で開いた選挙集会で、気勢を上げていた蔡英文総統=2019年12月1日(田中靖人撮影)
台北郊外の新北市で開いた選挙集会で、気勢を上げていた蔡英文総統=2019年12月1日(田中靖人撮影)

 台湾総統選について二つの感想を述べておこう。一つは、こうである。

 台湾では「族群」という用語が広く使われている。「族群意識」「族群関係」といったようにである。大陸に出自をもつ少数の外省人エリートによる強権的支配の時代が1980年代の後半期に終焉(しゅうえん)、台湾に政治的民主化の時代がやってきた。族群という用語が頻出するようになったのは民主化以降のことである。

 ≪「族群」間亀裂への不安≫

 台湾は移民社会である。17世紀末葉以来、対岸の福建や広東から移住してきた人々とその子孫は本省人と呼ばれ、台湾住民の大多数を占める。大陸で戦われた国共内戦に敗れ台湾に流入してきた国民党の軍人・軍属、その係累(けいるい)が外省人である。少数の外省人エリートが専制政治体制を敷き台湾の政治社会の中枢を占めてきた。「省籍矛盾」であり、台湾社会はこの矛盾の中を揺れ動いてきた。