正論

日本の古代を彩る「英雄叙事詩」 文芸批評家・新保祐司

神西湖から出雲大社方面の眺め。大国主命とスセリビメの結婚のもう一つの意味がのぞく=島根県出雲市(恵守乾撮影)
神西湖から出雲大社方面の眺め。大国主命とスセリビメの結婚のもう一つの意味がのぞく=島根県出雲市(恵守乾撮影)

 ≪日本書紀成立1300年≫

 今年は、『日本書紀』成立1300年に当たる年である。それを記念して、上野の東京国立博物館で特別展「出雲と大和」が開催された。日本の古代史に国民の関心が高まることは喜ばしい。グローバリズムが突き進んだ果ての混乱の中にあるこの時代に、世界の諸民族はそれぞれ自らのアイデンティティーの探求に向かって動いているが、日本人が日本人としてのアイデンティティーを確認するとしたら、古代の歴史を振り返ることは必須だからである。アイデンティティーの自覚は、深き民に不可欠なのだ。

 展覧会では、高さが約48メートルあったとされる出雲大社本殿の模型に驚嘆した。また、荒神谷(こうじんだに)遺跡から出土した大量の銅剣、銅鐸、銅矛の陳列には目を見張るものがあった。勾玉(まがたま)や三角縁神獣鏡の美しさに「美」の発生の秘密が感じられるようであったし、埴輪(はにわ)の「見返りの鹿」には、「芸術家」の原型の誕生に立ち会っているような気がした。埴輪の類は、これまでもいろいろなものを見る機会があったが、これは、傑作である。これを作った古代の人間の体温が感じられたが、こんなことは私としては稀(まれ)なことであった。「創造」の喜びを感じている人間が、5~6世紀の出雲に確かに存在したのだ。