正論

隠蔽や独裁は危機の答えにならず 同志社大学教授・村田晃嗣

新型コロナウイルス感染者のケアにあたる病院の医療関係者=1月24日、中国・武漢(AP)
新型コロナウイルス感染者のケアにあたる病院の医療関係者=1月24日、中国・武漢(AP)

 スティーブン・ソダーバーグ監督『コンテイジョン』は、2011年公開の映画である。タイトルは感染を意味する。香港から致死性の高いウイルスが数日で世界的に感染し、米疾病対策センター(CDC)や世界保健機関(WHO)が懸命に対処するという内容で、今や予言的とされる。しかも多国籍企業による森林の乱開発が蝙蝠(こうもり)を発症源とするパンデミックをもたらしたという設定なのである。

 ≪映画や小説が描いた世界≫

 はるか昔に、はるかに悪意に満ちた予言もあった。アメリカの作家ジャック・ロンドンの短編小説「比類なき侵略」で、こちらは実に1910年の作品である。日本の支配下で中国は近代化を遂げてやがて日本を破り、70年には5億人の人口を擁して世界を席巻する。これが「比類なき侵略」である。だが、アメリカ建国200周年に当たる76年に、ある学者が大統領に奇策を授けた。

 そこで、米軍が北京上空から数匹の蚊を散布すると、様々な伝染病が瞬く間に拡散し、4週間後には中国皇帝すら死亡して10億の民はほぼ死滅する。当時の黄禍論(西洋世界での黄色人種脅威論)を背景にしている。