正論

新型コロナ感染不安の心理学 拓殖大学学事顧問・渡辺利夫

マスク姿で通勤する人々=4月30日午前、東京駅(原田史郎撮影)
マスク姿で通勤する人々=4月30日午前、東京駅(原田史郎撮影)

 新型コロナウイルスの拡散に人々は怯(おび)えを隠せない。医療崩壊のニュースが報じられるたびに不安と恐怖に身の縮む思いに駆られている。ウイルスの正体がいまだつかめず、治療薬の開発、免疫力効果の発揚にはなお時間を要するらしい。

 この状況下でおそらく最も深刻なことは、人々の心の中に不安障害や強迫観念が密(ひそ)やかに進んでいくことであろう。強迫観念が少しずつ積もり、やがてその累増が社会的なパニックを引き起こす危険な可能性がある。

≪不安の「虜囚」となるなかれ≫

 生きとし生けるものにはすべて生存本能がある。自己防衛本能がある。人間の本性である。この本性があってこそ、人間は古来このか細い人生を生き永らえてこられたのにちがいない。しかし、人間の生存本能は、時として自らの生存を脅かすものを特定の他者の中に見出し、これを非難し糾弾する攻撃的な心理へと人々を誘う怪しさと危うさがある。罹患(りかん)者を排除しようとする差別的な心理はしばしば御(ぎょ)しがたい。