正論

塚本元委員長と日本の安全保障 杏林大学名誉教授・田久保忠衛

外交評論家・杏林大学名誉教授の田久保忠衛氏
外交評論家・杏林大学名誉教授の田久保忠衛氏

 ≪旧民社党の果たした役割≫

 旧民社党にいた8人の委員長で最後まで存命した、塚本三郎氏が亡くなられた。個人として寂しいし、解党後も不思議な存在感を残していたこの党にも新しい時代が到来したのであろうか。

 死児の齢(よわい)を数えるようなものだが、民社党の果たした功績は二つあった。一つは戦後の日本社会に不気味な影響力をいまだに残しているマルクス主義に痛打を浴びせ続けてきたことだ。その役を担ったのは政治家よりも、党に賛同した知識人、とりわけ戦前自由主義思想家で東京帝国大学教授だった河合栄治郎門下生であった。

 一例だけ挙げると、昭和34年の社会党大会後にNHKテレビで行われた猪木正道京大教授と、労農派の流れをくむマルクス経済学者で、日米安保条約改定闘争と同時に展開された三井三池炭鉱闘争の中心人物であった向坂逸郎氏の公開討論だ。

 民社党発足前のできごとだが、カリスマ的存在だった向坂氏が中産階級没落説、暴力革命論、プロレタリアート独裁論などについて一つ一つ論破される様子をかなりの若者が視聴したと思う。共産主義の理論に挑戦する学者は小泉信三慶大教授以外には存在しなかった時代である。