正論

歴史に学ぶ感染症と社会の再興 学習院大学教授・井上寿一

スペイン風邪の予防注射液を製造する様子を報じる新聞記事(1920年1月21日付時事新報)
スペイン風邪の予防注射液を製造する様子を報じる新聞記事(1920年1月21日付時事新報)

 新型コロナウイルス感染症のパンデミック化は予断を許さない状況が続いている。どうすべきか、手がかりを求めて過去をさかのぼると、約100年前にたどり着く。大正7(1918)年、「スペイン風邪」(インフルエンザ)が世界的に大流行していた。日本での死者は38・5万人あるいは45万人ともいわれている。以下ではこの「スペイン風邪」の歴史の教訓を考える。

 ≪「スペイン風邪」当時の大正≫

 「スペイン風邪」に関する根本史料は内務省衛生局がまとめた報告書である。この報告書によれば、日本での流行は全国的で罹患(りかん)者も「一部階級に極限せずして職業、年齢」を問わなかった。

 実際のところ当時の首相「平民宰相」原敬も大正7年10月25日、ある祝宴に出席した際に「風邪」にかかっている。原は日記に「風邪は近来各地に伝播(でんぱ)せし流行感冒(俗に西班牙風邪と云(い)ふ)なり」と記している。38度5分まで上がった熱は数日のうちに平熱となったものの、原は公務に復帰するのを1週間、控える。