正論 戦後75年に思う

不安と恐怖の虜囚となるなかれ 拓殖大学学事顧問・渡辺利夫

東京・渋谷のスクランブル交差点をマスク姿で行き交う人たち=2日午後
東京・渋谷のスクランブル交差点をマスク姿で行き交う人たち=2日午後

 ≪心理の感染回避できるか≫

 過日、旧知の精神科医と一杯やる機会があった。「このところ新規感染者数が増え第2波がやってきたということなんでしょうかね」と問う。氏は「そんなこともないでしょう。数百人くらいで高止まりしてオーバーシュートはないんでしょうね」という。多少安堵(あんど)して「どうしてそうなんでしょうね」といえば「もう日本人の相当多くが抗体を獲得しているんだと思いますよ。渡辺さんね、ひどいのは不安障害や強迫観念の広がりの方ですよ。私の実感ではエイズの時よりもひどい神経症が広がってるんじゃないかな。そのうち日本の社会がパニック症候群を引き起こすんじゃないかと心配しています。深刻なのは新型コロナウイルス感染そのものじゃなくてこちらの方ですよ」という。大体同じように考えていた私には随分と得心のいく話だった。

 2人の密(ひそ)やかな語りだったが、事態をそのようにみている人は結構多いんじゃないかとも思う。しかし、そういう考え方をジャーナリストなり言論人が発することは滅多(めった)にない。