正論

種の保存、種の繁栄という幻想

竹内久美子さん
竹内久美子さん

 □動物行動学研究家・エッセイスト・竹内久美子

 ≪世間に広がった誤解≫

 最近、どうして世間の認識は50年も前のままなのだろうか、と脱力する出来事があった。ある会合で講演をしたのだが、主催者の方が私を紹介する際に、何の疑いもなく、こうおっしゃったのだ。人間も含め、動物は「種の保存」や「種の繁栄」のために行動する。

 それを聞いた人々も、うんうん、その通りと、とても満足げな表情を浮かべていた。断っておくが主催者、講演を聞いてくださった方々を責めるつもりは毛頭ない。私が不思議でならないのは、人間も含め、どんな動物も、種の保存のためにも、種の繁栄のためにも行動していないというのに、人間はこれらの言葉を信じ込み、それはほとんど酔いしれるかのような状態にあるということだ。

 もう少し例をあげるなら、私の師である日高敏隆先生が、あるとき講演で延々1時間をかけ「種の保存」「種の繁栄」は間違いであると説明した。にもかかわらず主催者はこう感想を漏らしたのだ。