正論

産業史からみた脱炭素の矛盾 産業遺産情報センター長・加藤康子

加藤康子氏
加藤康子氏

 ≪鉄の街が支えた繁栄の原動力≫

 日本製鉄九州製鉄所八幡では挨拶をするときに敬礼をし「ご安全に」と声をかける。寒い冬の日、そぼ降る雨の中、くろがね線が宮田山トンネルから出てきたとき、できたての熱い鋼材を載せた列車に小雨があたり、ぼあっと湯気がでる。私の好きな風景である。鉄の街には真っ黒になり働いていた昭和を支えた市民の手がある。その手は工場、職場、家庭でわが国の繁栄を支えた原動力であった。

 前身の官営八幡製鐵所は明治の殖産興業政策の象徴でもあり、日本の産業革命発祥の地である。立地する北九州は高度経済成長期、国民総生産の4分の1近くを生産する大工業地帯だった。今は公害を克服した環境未来都市として住みやすさで知られている。海に面した製鉄所には鉱滓(こうさい)線が走り、歴史的工場群が佇(たたず)む。隣には電動車で使われる駆動モーター用電磁鋼板など新素材が生産されている。産業革命は現在進行形である。