象徴 次代へ

継承のかたち(4) 富士登山ご経験 陛下の原点に

富士山8合目の山小屋で、車座になって高校生らと会話される天皇陛下=昭和63年8月1日(山口英一さん提供)
富士山8合目の山小屋で、車座になって高校生らと会話される天皇陛下=昭和63年8月1日(山口英一さん提供)

 「ヤッホー」。独特のかけ声とともに、法被姿の天皇陛下が数人の男性と、酒だるに木づちを振り下ろされた。平成20年12月、都内のホテルで開かれた日本山岳会の年次晩(ばん)餐(さん)会。山岳会会員である陛下の臨席は何度かあったが、恒例の鏡開きへのご参加は初めてのこと。同席していた元山岳会会長、宮下秀樹さん(88)の計らいだった。

 「酒が飛び散ってはいけないと気遣い、お願いしたことはなかったが、私の発案で直前に法被をお渡しした。陛下には笑顔で応じていただいた」(宮下さん)。陛下は同年の夏、富士登頂を果たしており、記念の意味も込められていた。

 陛下が晩餐会に臨席する際、着席されるのは決まって「富士山」のテーブル。陛下は後に山岳会会報に「登頂していない身としてはいつも多少の引け目を感じていた」との思いを吐露した一方、この日に関しては「晴れて富士山のテーブルに着くことが出来た」と記されている。富士ご登頂は、20年来の悲願だった。