昭和天皇の87年

東条英機の逆鱗 政敵・中野正剛は割腹自殺した

画=井田智康
画=井田智康

第187回 圧政(1)

 昭和18年の元日、新聞を読みながら朝食をとっていた首相の東条英機は、顔面を真っ赤にして憤怒し、自ら情報局に電話を入れた。

 「朝日新聞を発禁にしろ!」

 東条の逆鱗に触れたのは、「戦時宰相論」と題された記事だ。右派政党「東方会」を率いる衆院議員、中野正剛が寄稿したもので、曰(いわ)く…

 「大日本国は上に世界無比なる皇室を戴いて居る。忝(かたじけ)けないことには、非常時宰相は必ずしも蓋世(がいせい)の英雄たらずともその任務を果し得るのである」

 また曰く…

 「難局日本の名宰相は絶対に強くなければならぬ。強からんが為には、誠忠に謹慎に廉潔に、而して気宇広大でなければならぬ」

 暗に東条を批判しているのは明らかだ。

 (天皇陛下がおられるから俺のような凡才でも宰相が務まるというのか…、この俺が誠忠でも謹慎でも廉潔でもないというのか…)

 歯ぎしりして新聞を握り潰した東条が、中野を目の敵にしたのは言うまでもない。