
第193回 東京大空襲
悪魔の火炎が、未明の帝都を焼き尽くした。昭和20年3月10日、東京大空襲-。この日、325機の米爆撃機B-29が計約1600トンもの焼夷弾を投下し、浅草、本所、城東、下谷などの住宅密集地に地獄絵図を広げた。翌朝、生き残った者が目にしたのは、一面の焼け野原と、道路や河川に折り重なった黒こげの焼死体-。被害は死者10万人超、被災家屋26万棟超、罹災者100万人超に達した。
奇しくもこの日、皇室に新たな命が誕生する。東久邇宮盛厚王に嫁いだ昭和天皇の長女、成子内親王が空襲下の麻布・鳥居坂御殿の地下室で、男子を出産したのだ。
だが、昭和天皇に初孫を喜ぶ余裕はなかった。帝都の被害に愕然とし、その日のうちに被災地を見て回りたいと、侍従らに話したという。
18日、昭和天皇は車と徒歩で、深川、本所、浅草、下谷、本郷、神田を巡視した。